Yさんは大変な強豪で、オーツはほとんど勝った経験がありません。オーツとの駒割りは香落ち、香落ち、角落ちの交互ということになっています。もちろんオーツが下手です。
この日は、Yさんとの角落ち番でしたが、飛車交換になり、それぞれが相手陣に飛車を打ち合って、図の局面になりました。
この図はオーツが78手目、▲6一飛とした局面です。この局面は水匠5の形勢判断ではまったくの互角です。角落ちの手合いということで、(水匠5の判定によれば)対局開始の時点で下手が +650 点くらいの有利な状態で始まっていますので、この局面でまったくの互角というのは実はYさんが 650 点くらい盛り返したということです。
さて、ここでYさんが▽1六飛成としました。この手はオーツの攻めを見落とした一手バッタリの手であって、この手を指した瞬間に水匠5の下手の評価値が +2,000 点ほどになり、形勢は下手の勝勢となりました。下手の手は、将棋を知っている人には、そうむずかしくない手です。▲3五角です。この手は次に▲2一銀までの一手詰みになる「詰めろ」です。もちろん、この詰めろは簡単に受かります(実戦では上手が▽4一香としました)が、下手は▲6二角成とすることができました。こうして、下手は銀得に加えて、自陣で遊んでいる角が攻めに使えるようになったわけです。▲6二角成の時点で形勢が +2,400 点となって、下手にグッと傾きました。
局後の感想戦でYさんが語ったところでは、▲2一銀をまったく見落としていたということでした。
オーツはかなり驚きました。Yさんほどの強豪が見落としをすることもあるのだということです。
まあ、プロでも自玉の簡単な詰みをうっかりしたりすることがあるので、アマチュアでは当然かもしれませんが、このうっかりはとても大きなインパクトがありました。
この一手で下手が勝勢になり、あとは順調に下手の勝ちとなりました。
上の図で、下手の▲6一飛が次の▲3五角をねらっているとわかっていれば、上手は▽1六飛成とせずに、たとえば▽2五桂とでも跳ねて詰みを防ぐとともに、次に▽3七桂成をねらっていけば、上手が順調でした。
オーツは、強い人でも見落としはあるものだという貴重な経験をしました。
ということは、弱い人でも強い人に勝つチャンスがあるということです。将棋の対局では、なるべく投了することなく、最後まで(自玉が詰むまで)指し続けることが大事なように思います。終盤戦では何が起きるかわからないものです。

