Mさんは角交換型の四間飛車を得意とする方です。
図は、先手のMさんから角交換を行い、左銀が▲7八銀と立ったところです。局面は序盤戦であり、普通に見れば、まだお互いの陣形整備が続くところでしょう。
しかし、オーツはこの局面を見て、後手から角を打って乱戦に持ち込む手があるように思いました。
乱戦は、定跡がありませんので、本で勉強することができません。しかし、乱戦は創造性が発揮されるべきものであり、それはそれでおもしろいものです。正面から力比べをするような感覚です。
ちなみにAIの水匠5は、定跡があろうとなかろうと、当該局面の評価値を計算し、最善手を指し続けるようになっていますので、定跡がない将棋でも、後日、指し手がよかったかどうだったかを検討することができます。
さて、上記の局面で、オーツは▽6五角と打ちました。筋違い角です。水匠5によれば、ここでは▽5二金右や▽3二玉が推薦されています。陣形を整備するのがいいと言っているわけです。まあ常識的にはそういうものでしょう。
しかし、▽6五角と打った局面で、評価値は互角で、やや後手がいいとのことですから、この角打ちは無理筋ではなく、「ありうる手」ということになります。
こういう角打ちに対する先手の受け方は悩ましいものです。実戦では、先手が▲5六角と打って受けたのですが、この受け方が問題でした。ここで角を手放すのはもったいないということです。角を持ち駒として温存しておいて、あとで活用する方がいいというのが水匠5の判断なのでしょう。水匠5は、▲5六角の代わりに、普通に▲3八銀でよいとしています。後手は▽7六角と歩を取りますが、それに対して▲7九金と(▽8八歩の攻め筋を)受ければ大丈夫だということです。先手の金の形が変ですが、のちに▲8八金とし、さらに▲7七金として陣形を整備すればいいというのが水匠5の読みです。こういう指し方を提案してくるとは、さすがにAIだと思います。AIは、形に囚われることがありません。
先手の▲5六角に対して、後手のオーツは▽7六角と歩を取りました。歩を持ったので、▽8六歩、▲同歩、▽8八歩の攻めがあります。オーツはその攻めを受けるのがむずかしいと考えていました。
しかし、水匠5は▽7六角よりも、▽同角、▲同歩、▽5七角、▲7七銀、▽6八角成、▲同銀、▽3二玉、▲7七角の変化のほうがよかったとしています。確かに、こうなれば後手が有利で、かなりやれそうな局面です。
後手の▽7六角に対して、先手は▲3四角とこちらも歩を取りました。
これで、局面は相筋違い角になり、めったに見ない形になりました。お互いに歩損も歩得もしていないので、いい勝負かもしれません。しかし、水匠5は▲3四角で後手が有利になったとみています。つまり▲3四角は疑問手ということになります。確かに、これで互いに歩損はしていないのですが、先手は3四に行った角が活躍しにくそうです。水匠5は、▲3四角の代わりに▲4八金がよいとしています。前もって間接的な角の利きから金を逃げておく手です。
この局面から、オーツは攻めが継続できると読んでいました。以下のような手順で攻めました。▽8六歩、▲同歩、▽8八歩、▲7七桂、▽8九歩成、▲同銀、▽8六飛。
後手はこうして飛車が8六の歩を取って飛び出していったわけですが、▽8六飛が疑問手となりました。▲8八歩と打たれれば、どうせ飛車の成り込みができないのだから、ここは▽8七角成として、▲7八金に▽8六馬とすれば、後手だけ馬を作ることに成功して、後手が若干有利だったとのことです。
この図以下は▲8八歩、▽8四飛となり、熱戦が続きました。
オーツは、こういう乱戦をおもしろいと思いました。定跡がないからこそ、ある局面の最善手を自分で考えなければなりません。定跡(さらにはそれを書いた本、雑誌、ソフトなど)を参考にすることなく、自分一人で考えるというところが将棋のおもしろさ(の一つ)です。定跡通りに駒を進めたとしても、どうせ中盤戦から終盤戦では定跡がありませんから、未知の局面で自分で考えることになります。
乱戦は、中終盤戦が普通よりもちょっと早く始まったようなものです。経験がない将棋なので、最善の指し手を考えることはむずかしくなりますが、それは対局相手も同じことです。
オーツとしては、相手の陣形にスキがあると思ったら、果敢に攻めてみようと思います。つまり、乱戦は乱戦なりに、拒否をせずに「歓迎」の心意気で、飛び込んでみようということです。これも将棋の楽しみ方の一つです。

