オーツが読んだ本です。「私立大学定員割れの構造」という副題が付いています。
今の日本では、少子化が進む一方、大学が多すぎて、つぶれる大学が出てくるだろうと考えられますが、本書はその実態を描くものです。著者の小川氏は、長年高校教育に関わってきており、その後大学の教員になった人です。ですから、高校からの視点と大学からの視点の両方を持ち合わせている人ということになります。この問題を論じるのに最適な人材といえそうです。
第1章「試練に立たされる弱小私大」では、すでに消えた大学の実名をあげ、また、これから消える大学を紹介しています。定員割れを起こしている大学が危ないというわけです。
第2章「どのような大学が定員割れを起こしているか」では、最初に定員割れの定義を述べています。定員充足率90%未満の大学です。そして、どういう大学がそれに該当するかを探っていきます。1986年から2005年までの第2次ベビーブームの臨時定員が設定された時期に設立された大学が定員割れを起こしている例が多いとのことです。また短大が改組されて四年制大学になったものも定員割れが多いということです。
第3章「混乱のゴールデンセブン」とその後」では、ゴールデンセブン(1986年から1992年までの7年間)のときのできごとを記述しています。受験ブームが起き、莫大な臨時収入があった時期です。ベビーブームのために各大学が臨時定員を設けたりしたわけですが、それ以上に受験生が増えたため、受験料収入などで大学側が潤った時期ということになります。しかし、その影響は長期化し、既設大学が拡張戦略をとり、女子大学も新学部を開設したりしました。短期大学も潤ったわけですが、その後、波が引いてしまいます。
第4章「短期大学とは何か」では、日本における短期大学の歴史を述べます。短期大学は4年制の大学とずいぶん異なっており、旧専門学校が改組されてできあがったもので、研究志向はほとんどなく、女性がたくさん在籍していました。その後、日本企業の性格が変わり、事務補助職の需要がなくなり、短期大学の志願者が急減します。そこで、短期大学を改組して4年制大学にしようという動きが出てきます。
第5章「短大以上・大学未満」では、短期大学が四大化してどうなったかを描きます。新しい大学がたくさん誕生したのですが、地方に小さい定員で開設された例が多く、その多くが定員割れを起こしているという状況です。こうして「限界大学」が大量に出現することになったわけです。
第6章「新たな大学像」では、いくつかの具体的な大学名を挙げ、大幅な体制刷新を図った例を述べます。
第7章「弱小私大と高校」では、高校側にも事情があって、多様化校といわれるレベルの低い高校でも、卒業生が出るので、それを押し込む大学が求められるというわけです。定員割れを起こしている大学は、そんな高校生でも受け入れざるを得ません。こうして、大学教育が崩壊していきます。
第8章「弱小私大の生き残る条件」では、弱小私大が今後どうすればいいか、いくつかの提言をまとめています。入学前教育や初年次教育の充実、ターゲットを絞った学生募集、短大文化の清算など、もっともな提言が並びます。実際にそうしている大学の具体例をあげていますので、弱小私大にとっては大いに参考になるでしょう。
第9章「「限界大学」の明日」では、破綻が現実化する今後の動きを述べます。
本書は図表がたくさん使われています。つまりデータに基づいた議論が行われています。その意味で、信頼性が高いものになっていると思います。これからの日本の大学のあるべき姿を描いていると言ってもいいでしょう。タイトルは過激ですが、しっかりした記述が行われています。定員割れを起こしている大学は大いに参考になるでしょうし、そうでない大学でも、将来像などを考える上で大いに参考になるものと思います。
それにしても、大学は変わりました。昔はどう見ても安泰であり、その上にあぐらをかいているような大学が多かったのですが、今はそんなことではやっていけなくなっているのでしょうね。
参考記事:
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO13633770T00C17A3MY7000/
2017年05月03日
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