日本経済(さらには世界経済)の現状がどういうものか、今後どうするべきかを論じます。
とても読みやすい本です。わかりやすい日本語で書かれています。というか、それ以上に、著者の考え方が論理的で、本当に「わかっている」人だからやさしく書けたのでしょう。
最初にある「まえがき」は、次のような文章から始まります。
経済学とは何かと訊ねられれば、「希少資源の最適な利用の学問」と答えます。さらに、その目的は、「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」と言えるでしょう。
意外なことばです。wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6
を見ると、経済学の定義にはさまざまなものがあることがわかります。そこの記述によれば、ライオネル・ロビンズ(1932)『経済学の本質と意義』の定義が著者の定義に近いようです。オーツが知らなかっただけで、昔からこういう考え方がなされていたのですね。
というわけで、この本は、狭い意味の経済学の本ではなく、日本(また世界)が直面するさまざまな課題について、こう考えるべきだと説いていきます。
第1章「世界経済と日本」では、日本経済を世界の中で論じます。グローバル化、米国経済との関係、中国経済との関係、欧州経済との関係などを論じます。全体的な目を持つことができます。日本経済の強みは農業だという指摘は興味深いものです。農地の使い方が非効率だから、それを改善すれば大きなプラスになるというわけです。目から鱗の感覚です。
第2章「アベノミクスの評価と今後」では、アベノミクスは道半ばと見ています。しかし、政治は既得権益に弱く、有権者は甘いから、財政改革はできないということです。財政改革を実行するために、選挙制度を変えるという提言はおもしろかったです。
第3章「エネルギー政策を考える」では、エネルギー問題が経済の大問題であることを述べ、原油価格はどうあるべきか、省エネはどうなっているかなど、幅広く論じます。
第4章「働きやすい労働市場にするために」では、日本式雇用の長所と短所を述べています。女性をどう待遇するべきか、非正規社員をどうするか、定年をどう見るかなど、妥当な論考だと思いました。
第5章「少子高齢化社会の煉獄」では、医療費や社会保障費の使い方を変えていかないといけないという話です。
第6章「地方再生と教育改革の進め方」では、地方再生のポイントとして戦後の農地改革までさかのぼって地方のあり方を論じます。
著者の目・感覚のおもしろさがあふれています。世界を眺める目で日本を眺める。そういう視点が重要なのだと言っています。まさにそういうところに本書の価値がありそうです。
たくさん教えられることがあったように思います。
それにしても、日本社会を変えることはむずかしいものです。
参考記事:
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20151226