オーツが読んだ本です。「植民地支配と記憶の闘い」という副題が付いています。
本書は 324 ページあり、かなりくわしい論述がなされています。一読して、著者が日韓両方をバランスよく見て、客観的な立場から慰安婦問題を論じているように思いました。
慰安婦の中にもさまざまな立場の人がいたし、それぞれで経験したことも違っているものと思われます。著者は、それらの総体を丹念に拾い集めて、それら全部をきちんと位置づけて記述していきます。オーツは著者の態度に大いに好感を感じました。
これ1冊で慰安婦問題はかなり理解できるようになるものと思われます。
著者は、韓国版を出版した際に、韓国内で強い批判を招いたということがニュースになりました。その意味では、韓国版の忠実な「翻訳」を読みたいと思ったわけですが、本書は「日本版」であり、著者が日本語であらたに書き下ろしたものという位置づけになっています。日本語で書かれた日本版とハングルで書かれた韓国版の中身は、完全に一致していないと思われます。韓国版は、どちらかというと韓国人向けに、日本版は、どちらかというと日本人向けに書かれたものだろうと思います。すると、それぞれの読者に向けて、主張がごくわずかでもずれることがあるのではないかと思います。その意味で、(著者は立派な日本語の使い手ですが)あえて、訳者を別に立てて、その人に韓国版の全部の翻訳を依頼するというのがよかったのかもしれません。
それにしても、慰安婦問題がこんなにも大きな日韓間の問題になるとは意外でした。今や「歴史的問題」にもなってしまいました。そうなるには、関係者のそれぞれの思惑があったものと思われます。著者によれば、うまく日韓間ですりあわせて、こういう大きな問題になることを防ぐ手立てはあったように思いますが、今となっては、なかなかうまくいかない段階に至ってしまいました。
こうしたズレがどのようにして生まれ、どのようにして増殖したか。本書の中にはそういうことも言及されています。
日韓は、互いの誤解を解きつつ、もっと仲良くやっていけるはずなのに、そうはならなかったわけです。そういう流れの一つ一つが「歴史」を作り上げます。いやはや、むずかしいものですねえ。
2016年07月18日
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