2015年09月17日

中室牧子(2015.6)『「学力」の経済学』ディスカヴァー・トゥエンティワン

 オーツが読んだ本です。「経済学」を名乗っています。著者の中室氏は「教育経済学者」を名乗っています。扱っているテーマがテーマだけに「教育経済学」というのだそうです。しかし、本書の中には特段経済学的な要素は出てきません。オーツが考えるに、これこそが教育学です。では、世の中の教育学はいったい何をやっているのでしょうか。といったことを考え始めると、話題がそれてしまいますので、脇に置いておきましょう。
 ともあれ、本書で主張しているのは、きちんとデータをとり、それに基づいて教育に関して議論するべきだということです。当然のことです。
 では、どんなデータがあるのか。具体例は後で述べますが、学力や教育に関して興味深いデータが次々に上がってきます。とてもおもしろいものです。
 ただし、そのような例の大半がアメリカでの例であり、アメリカ人の研究者が調べて論文に書いたことを基にしています。それぞれの主張を裏付ける論文の出典は巻末の注に詳しく記載されています。さすがに研究者だけあって、このあたりはスキがありません。引用された研究の中では、日本人の研究者が日本人を対象に研究した例もわずかに出てきますが、本当にごく一部です。オーツはここが一番不満に思いました。自然科学では、データは世界共通かもしれないけれど、人間を扱う人文科学や社会科学では、世界共通ではないのです。日本人を対象にした研究とアメリカ人を対象にした研究で結果が異なることはいくらでもあることです。教育は、子供たちを研究対象にしていますので、ぜひ、日本のデータで議論してほしかったところです。しかし、本書によれば、日本ではこのような調査研究が(少なくとも研究者がアクセス可能な形で)行われていないのです。じつに残念なことです。
 では、本書で述べられていることのいくつかを紹介しましょう。
(1)pp.27-41 子どもを勉強させるためにご褒美で釣ってはいけないのか。
 結論から言うと、釣っていいということです。実際に効果が検証されています。「テストでよい点を取ればご褒美」よりも「本を読んだらご褒美」のほうが効果的です。具体的にどうすればいいかが示されているからです。
(2)pp.41-51 子どもはほめて育てるべきなのか。
 これも結論から言うと、子どもをむやみに褒めると実力の伴わないナルシストを育てるということです。また、子どものもともとの能力(=頭の良さ)を褒めると、子どもたちは意欲を失い、成績が低下するとのことです。褒めるなら、実行した内容に関して褒めるべきなのですね。
(3)pp.99-113 少人数学級には効果があるのか。
 結論から言うと、少人数学級には、多数の教員が必要になり、お金がかかりますが、お金をかけるほどの効果はないということです。

 他にもたくさんの観点から教育に関する研究結果が述べられています。すべてきちんとした調査・研究に基づいた議論であり、本書で述べられていることは簡単に否定できないように思われます。
 こういう本に比べると、日本で(特にテレビで)語られる議論は、全く議論になっていないように思われます。きちんとデータをとり、それに基づいて議論するようでないと、正しい政策には至らないのです。日米の間には教育に関して相当大きなギャップがあるようです。いや、教育だけではないのでしょうね、たぶん。


posted by オーツ at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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