2013年08月10日

博士号取得者の就職問題・朝日新聞の記事へのコメント

 オーツが見かけた新聞記事に対するコメントを書きます。
 朝日新聞が「やがて悲しき博士号 4割が就職難、採用枠増えず 文科省調査」と題して、文部科学省の調査結果を報じています。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201308070758.html
 博士課程を修了した大学院生たちで安定した職に就いていない人が4割を占めるというものです。そのことは、文部科学省の調査で明らかになった「事実」ですから、報道しても特に問題はないのですが、朝日新聞社としてこういう記事を書くなら、もう一歩踏み込んだ記事にするべきところです。はっきりいえば、掘り下げが足りないのです。
 以下、2点、コメントします。

(1)
 博士課程に進む学生は、20年間で2・5倍に膨らんだ。国が1991年度から「研究や産業技術の高度化に伴い、企業や研究機関で需要が急増する」とみて、「10年間で2倍程度」を目標に大学院生を増やす政策をとったことが背景にある。しかし、主な就職先である大学の採用枠はそれに見合うほど増えなかった。民間企業も採用に消極的とされる。

 こういう矛盾する記事を書いていて、記者は恥ずかしくないのでしょうか。
 国(文部科学省)が考えたのは「企業や研究機関で需要が急増する」ということです。しかし、主な就職先は、昔も今も「大学」なのです。こんなことをそのまましれっと書く記者の頭の中はどうなっているのでしょうか。
 つまり、ここで問題にするべきなのは、「企業や研究機関で需要が急増する」と見込んだ文部科学省なのです。文科省は何を根拠にしてこんな判断をしたのでしょうか。昔から博士課程修了者は就職状況がよくないままで、民間企業が採用に消極的なのは昔から変わりません。主な就職先は昔から大学関係だったのです。これからの日本では、大学もさほど増えないでしょう。となれば、博士課程修了者の就職先がなくなっていくのは当然です。
 実際に、博士課程修了者の需要が増えて、企業や研究機関で引っ張りだこになってから大学院生を増やす政策をとったってよかったのです。そうなったとしても、それまでの博士課程修了者(のうち就職していない人たち)で対応は可能なはずだし、そういう事態になってから大学院生を増やす対応をしても、5年もすれば十分な数の大学院生が生み出せるのです。大学院生といったって、修士課程2年と博士課程3年で5年もすれば修了なのですから。
 オーツは、(勝手に「需要急増」と見込んだ)文科省の判断ミスがあった、そのせいで博士課程修了者の就職が大変になり厳しい状況にあると考えますが、朝日新聞社はそんなことはまったく書いていません。

(2)
理化学研究所(埼玉県和光市)の工学博士の女性研究員(35)は2011年、約10倍の難関を突破して今の職を得た。年収は約700万円。自分で調達しなければならない研究費も、15年春までの3年半で科学技術振興機構から計4千万円の助成金を得られることになった。だが、理研との契約は1年ごとで、更新される保証はない。

 女性研究員が、契約は1年ごとだから大変だと言っています。
 しかし、制度から考えて、上の発言は若干矛盾を含んでいます。4千万円の助成金を3年半の研究期間でもらっているのに、研究機関での任期は1年なのです。1年後に契約が更新されなかったら、この助成金はどうなってしまうのでしょうか。
 この女性研究員は(上記の引用部分に続けて)「今は恵まれている。でも、終身ポストが得られるまで安心できない」と発言していますが、本当の問題は、そこにはなく、助成金の制度と任期の「ずれ」にあるのではないでしょうか。
 研究者が他の研究機関に転職できたら、助成金を持って行くことが可能なのかどうか、記事には書かれていません。もしも持って行けないとすると、任期が1年の研究員は、こういう助成金が受けられなくなる可能性があり、その面から研究が制約されてしまいそうです。
 もしも、女性研究者が4千万円の一部で実験設備を購入したとしましょうか。それは理化学研究所の備品になるのでしょうが、この女性研究者が他の研究機関に転職したとき、その実験設備を持って行けるのでしょうか。転職がかなわず、当面無職になるとしたら、(たとえば)自宅に持って行けるのでしょうか。持って行けないとなると、当該研究者にとって、研究の継続性が著しく阻害されてしまいます。

 とりあえず2点コメントしましたが、こんな大事なことを無視して新聞記事が書かれているのでしょうか。
 オーツは、この新聞記事を読んだだけにすぎず、記事が記述している事実をよく知りません。しかし、記事を読んだだけで「変だ」と思います。こういう記事を書く記者は「変だ」と思わないのでしょうか。だとしたら、そんな記者が書く記事は信用できないように思いますが、どうなのでしょうか。
posted by オーツ at 04:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース時評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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