2013年02月09日

川島博之(2009.3)『「食糧危機」をあおってはいけない』(Bunshun Paperbacks) 文藝春秋

 オーツが読んだ本です。
 タイトルが内容を表しています。今の、そしてこれからの世界で、「食糧危機」などはないと主張する本です。
 食糧危機とは何でしょうか。
 本書では、いくつかに類型化し、それぞれを否定する形で記述が進められます。
 第1章「「爆食中国」の幻想」では、BRICs などの新興国が経済的に成長して、肉を食べるようになると、肉の生産に大量の穀物が必要になり、結果的に穀物の需要が急増して生産が追いつかなくなるという考え方を取り上げます。しかし、心配は不要です。家畜の飼料には大豆の絞りかす(大豆ミール)が使われること、中国の大豆の輸入の増加に対応してブラジルが大豆を大量に輸出するようになっていることを示しています。その他、中国では豚肉が好まれること、インドはリッチな人ほどベジタリアンで肉を食べないなど、世界の各地の文化の多様性を考えれば、牛肉が欧米のように食べられるようになるわけではないとしています。
 第2章「「買い負け」で魚が食べられなくなる?」では、マグロなどの競りで日本の業者が中国などの新興国の業者に競り負けることがあり、中国人が日本人と同じように魚を食べるようになると、世界の漁獲量を1国だけで上回るという考え方を取り上げます。しかし、これも心配は不要です。中国の寿司のブームはあくまでブームで、食べる量はごくわずかで、日本が買い負けしているというよりは、中国の仲買人たちが金に糸目を付けない買い方をしている(高すぎる値付けをしている)ため、日本の商社などがせりから手を引いているだけだとしています。世界的に、魚を食べる文化は少ないし、中国のように川魚が中心という場合もあるので、日本のように海魚を食べる場合は問題はないとしています。
 第3章「21世紀、世界人口は減少に転じる」では、人口が爆発して食糧が不足するという考え方を取り上げます。しかし、これも事実と違います。これから人口は減少し、少ない人口に高い教育を与えるような方向に変わっていくのが時代の趨勢だとしています。ただし、アフリカは例外です。
 第4章「生産量はほんとうに限界か?」では、耕地の生産性は頭打ちで、農業用地も減少しているし、水も肥料も不足し、地球温暖化も悪い影響を与え、食料生産は限界に達しているという考え方を取り上げます。しかし、これも事実と違います。過去50年ほどで小麦の単位あたり収穫量は7倍にもなり、しかも、集約農業をしているのは先進国の一部にとどまるので、世界には膨大な粗放農業地帯があるわけです。ここで集約農業をすれば、食料生産はあっという間に何倍にもなるというわけです。
 第5章「「バイオ燃料」の嘘」では、アメリカやブラジルが推進しているバイオ燃料を取り上げます。トウモロコシからバイオ燃料を作るので、トウモロコシが急騰し、作付面積が増え、逆に、大豆の生産が減ってしまいます。バイオ燃料はパンを暖炉にくべるようなものだという考え方を取り上げます。しかし、これも嘘です。バイオ燃料は、実際は価格が高く、市場競争力がないので、急激に普及するようなことはありません。普及するなら、むしろ、サトウキビから作るほうがよさそうです。いずれにせよ、食料の心配をするような事態にはなりそうもありません。
 第6章も第7章もありますが、主な論点は5章までに述べられているので、こんなことで十分理解できると思います。特に第4章がおもしろいと思いました。根拠となる数字を丹念に調べています。
 結論として、食糧危機はないということです。世界の一部には飢餓がありますが、それは、食糧不足が原因ではありません。政治など、別の原因が大きいのです。
 オーツは、本書を読んで、目を見開かされる感じがしました。日本のカロリーベースの食料自給率40%などという農水省の宣伝にだまされてはいけないと思います。日本の農業のあり方など、考え方を改める必要がありそうです。
 しかし、政治の力学を考えると、むずかしい問題です。だって、農業従事者が多い地域の1票の価値が高いのですから、政治家はどうしたってそちらを向いた政治をするようになるでしょう。1票の価値の格差是正は、日本の将来を考える上でもとても大切なことだと思います。


posted by オーツ at 04:51| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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