2012年10月14日

秦郁彦(1999.6)『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)新潮社

 オーツが読んだ本です。430ページほどの分量があります。やや小さい活字でびっしりと組んであります。
 最近も、韓国が慰安婦問題を声高に宣伝し、ニューヨークに看板を出したとか、さまざまな動きがあります。オーツは、慰安婦の実態を知りたいと思い、本書を読んでみました。
 本書を一読して、まず驚いたのは、さまざまな参考文献を具体的に列挙している点です。本文中で述べることに対して、注の形ですべて出典を明示しています。歴史学者としては当たり前なのでしょうが、このような記述のしかたには大変好感が持てます。
 本書を読んで、慰安婦の実態を知り、日本の対応のまずさを知り、韓国の主張の異常さを知りました。
 慰安婦問題の原因にはさまざまなことがありますが、まず、第7章に詳述される吉田清治の詐話の影響が大きかったでしょう。自分が軍人だったとき、済州島に行って、朝鮮人女性を拉致して、慰安婦として戦場に送り込んだという話です。結論的に、秦はこの話をウソだとしていますが、なぜそう考えられるのかを筋道を立てて論証しているので、まずこの結論に間違いはないと思われます。
 次に、朝日新聞の問題です。朝日新聞は吉田清治の話を鵜呑みにして、紙面で大々的なキャンペーンを張りました。それが日韓関係に大変な悪影響を与えたものとなったのは当然です。慰安婦問題は、吉田清治と朝日新聞が故意に引き起こしたものだったといえるでしょう。この二つがなかったら、慰安婦問題は全然別の経過をたどったものと思われます。
 第8章では河野談話(1993.8.4 の河野洋平の談話)の問題点を詳述していますが、その後の日韓間のゴタゴタを考えると、河野談話はかなりまずい対応であったと思われます。事実に立脚していない点が一番の問題点です。すでに発表した「談話」を撤回したりすると、それはそれで外交問題になりかねませんが、補足の談話を発表して、河野談話のどこが問題であったかを追加説明するべきではないかと思います。
 第9章の国連のクマラスワミ報告書の問題もまた大きな問題です。ずいぶんひどい内容ですが、こういうのが通ってしまうということが何とも信じられません。
 本書は、このような慰安婦問題に関する一つの見方を述べるものですが、本書の価値は、第1章から第6章までにあるように思います。
 第1章は、慰安婦問題が突如わき起こった経緯を記述しているもので、「まえがき」に相当します。
 第2章は、当時の日本にあった公娼制を記述しています。現代人の立場で慰安婦を考えてはいけないと思います。当時は、日本国内で女性が身売りをすることがかなり広く行われ、朝鮮半島でも同様であったということです。そのような社会状況の下で慰安婦が存在したことは押さえておかなければならない事実です。
 第3章は、中国戦場と満州での慰安所と慰安婦がどんなものだったか、これまた豊富な文献を駆使して描きます。性病の統計なども活用され、さまざまな面から実態に迫ります。
 第4章は、太平洋戦線での慰安所・慰安婦を描きます。日本軍が敗走する中で、慰安婦たちも大変な苦労をしたようです。
 第5章は、諸外国の「戦場の性」を描きます。ドイツ、ロシア、イギリス、アメリカなど、何のことはない、世界の各国の軍隊が同様の制度を設けていたのです。そうしないと、占領地で兵士による女性に対する強姦事件が頻発したと考えられたからです。現地人の女性と兵士たちを守るためには慰安婦が必要だったというわけです。世界各国でそういう状況にあったことに照らすと、国連が日本を名指しして性奴隷(sex slaves)の非難決議を採択するなどというのはちゃんちゃらおかしいことになります。
 第6章は、慰安婦たちの身の上話を追求していきます。裁判所で語られた証言などを、関係者にたずねながら「裏を取る」作業を行っていきます。しかし、なかなか困難なことで、売春婦一般の身の上話と同様、どこまでが真実か、わからないという状況です。これは単に話を信じるか否かということではなく、何回か語られた身の上話の相互の食い違いを指摘したりといった検証を行っています。
 本書は、まさに「慰安婦問題の百科事典」です。
 それにしても、韓国の人たちがいまだに慰安婦問題を忘れずに抗議の声を上げ続けているのは、何とも不思議です。厳密な数の統計はないけれども、慰安所にいた女性たちの国籍を考えれば、日本人が一番多く、朝鮮人などは少数に過ぎません。軍隊が女性たちを強制的に連行するようなこともなかったといえます。女衒というか、業者が女性たちを騙したケースはかなりあったと思われますが、それは日本の責任かというと問題が残ります。(日本の責任だという主張にも一理あります。)しかも、慰安婦は、当時の一般の売春婦と同様、かなりの高給をもらって、本国に送金していた人も多かったわけです。
 終戦後、韓国は慰安婦問題を提起することなく、損害賠償請求もしなかったのです。今、提起されているような大問題であるなら、まさに1945年8月の終戦(韓国式にいえば光復)のときに、問題にするべきでした。多数の朝鮮人女性を拉致したとすれば、集落ごとにその目撃者が多数いたはずで、終戦直後は関係者も多数生きていて、裏付け調査などもやりやすかったでしょう。そんなこともしないままに、1965 年に日韓条約が結ばれます。この時点で、韓国側は日本に対する一切の請求を放棄しています。それから数十年経って、慰安婦問題が起こります。
 実に不思議な経緯をたどります。
 オーツは、慰安婦について、あれこれ考えたこともありませんが、本書を読んで、日韓のそれぞれの政府の対応がちぐはぐであったと感じました。

 何はともあれ、慰安婦問題を考える人にとって、本書は必読文献になるように思います。


posted by オーツ at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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